そして、ゆこうとする夏に再び舞い上がる、もう一つの「蛍」
鬼束ちひろ [www.onitsuka-chihiro.jp]
「蛍」
楽天ブックス
映画『ラストゲーム 最後の早慶戦』主題歌
坂本昌之をプロデューサーに迎えて放つ、壮絶な一曲です。
すでに7月より各所での配信も行われ、いよいよCDリリースとなりました。
どれ程売れるのか、どれ程世の中に受け入れられるのか。映画のプロモーションも本格化し、また劇場公開されるとチャート上でどのような動きを見せるか、という面でも楽しみな1枚です
いや、敢えて壮絶という言葉を選びました。
舞い上がる蛍とは、時間でしょうか、命そのものでしょうか。
活動再開は無いかと思われるほどに長い休止期間を経て、昨2007年5月の「everyhome」と9月に「僕等 バラ色の日々」のシングル2枚、10月にアルバム「LAS VEGAS」と出してきましたが、もはや『月光』や『流星群』の鬼束ちひろは過去の存在とまで言われることもありました。
その歌声は枯れ、言葉は尽きたかのようでした。
けれども、2008/4/26オーチャードホールでの『NINE DIRTS AND SNOW WHITE FLICKERS』にて客席を圧倒的し、そのパフォーマンスに「完全復活」の声さえ上がりました。(RO69::即日ライブレポート::4月27日(日) 2008.04.27 鬼束ちひろ @ Bunkamuraオーチャードホール[RO69.jp])
しかしながら、それでもやはりその評価の元は過去の楽曲によるものであったわけで、それでは本来彼女がいるはずの立ち位置からはズレてしまっていたと思うのです。
名曲と言われる「月光」は、ともすればあまりにも感情的、感覚的で若さが目立つ曲でしたが、この「蛍」は月光のように物語り的な情景ではなく、彼女が伝えようとしている世界を具体的な光景として、叙情的に歌い上げ垣間見ることが出来る曲だと思います。
歌詞に出てくる「あなた」と「永遠」の関係に少なからず戸惑いますが、大きな流れとしては「月光」で示した世界の延長線上にあるようで、さらに具体的な時間と空間の表現を感じさせられます。
新しく生まれ変わったというよりは、以前のように言葉を取り戻したように思います。
彼女の詩で不思議なのは、単に異次元や異世界のようなファンタジックな光景ではなく、とても現実的な時と世界が見えてくるところです。
移り行く時を俯瞰するような感覚で見ているのかも知れません。
そんな彼女の紡ぎ出す世界を僅かながらにも感じ、思いながら聴いていると、この「蛍」、新しくも、やはり変わらぬ鬼束ちひろの世界のようです。
彼女自身もまた、泥沼の奥底から這い上がり(いえ、まだその中にいるのかも知れませんが)、新しい世界を目指して舞い上がる蛍です。
オフィシャルサイトより"Information"のページから辿ってYouTubeやYahoo!の、「鬼束ちひろ「蛍-movie edit-」ビデオクリップ先行フル視聴!」へと行けます。
蛍 鮮やかに心を焦がせせつなくて、心を揺らす歌声です。
強く 弱く 光って踊れ
独特の世界観と、力強く歌い上げる声、
この1曲だけでは判断できませんが、確かに「完全復活」かも知れません。
この後に続く曲がどのような世界を紡ぐのか、本当の評価はそれからでよいと思いますが、
少なくとも、新しい1章が生まれたことは素直に喜んでみたいと思います。
それにしても鬼束ちひろ・・・ずいぶん痩せてしまいましたね。
RO69のインタビューを見る限りでは昨年のTV出演時(僕らの音楽:2007/6/1 #159)よりは遙かにしっかりしていますけれど、それでもまだ人間不信のような様子が気に掛かります。
痛々しい、などと言うのとは違って、なんていうか、ちょっと辛いです。
まだ時間の暗闇の中を彷徨い続けているような、気配が気になります。
蛍・・・見たこと無いそれでも、その不器用さを隠すこともなく生きようとしている姿、自らを飾り立てることも偽ることも出来ずに生きてゆくことしかできない危うさが、彼女の歌声と共に痛いほど心に響きます。
基本的に虫が怖い